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高知地方裁判所 平成元年(行ウ)1号 判決 1990年11月05日

高知市東秦泉寺五二五番地四

原告

鈴木敏雄

右訴訟代理人弁護士

田村裕

同市本町五丁目六番一五号

被告

高知税務署長 佐野秀雄

右指定代理人

田川直之

右同

大塚明俊

右同

川村巌

右同

岡田武夫

右同

長谷川三郎

右同

岡林幸男

右同

横濱輝生

右同

宮武輝夫

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が昭和六二年一月二七日付で原告の昭和六〇年分の所得税についてした更正のうち、総所得金額一億〇〇六七万四四四二円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告が、被告においてした第一記載の更正(確定申告額を超える部分)及び過少申告加算税の賦課決定(以下両者を併せて「本件処分」という。)が原告の総所得金額を過大に認定(非課税所得を課税所得と誤認)した違法なものであるとして、その取消しを求めた事案である。

一  事実関係

かっこ内に証拠を揚げた事実については当該証拠によってその事実を認定することができ、その余の事実についてはいずれも当事者間に争いがない。

1  原告の昭和六〇年分の所得税の確定申告、これに対する被告の本件処分、原告の被告に対する異議申立て、これに対する被告の決定、原告の国税不服審判所長に対する審査請求及びこれに対する同所長の裁決は、別紙課税経過表記載のとおりであり、原告は、平成元年一月二〇日右裁決書謄本の送達を受けた。

2  有限会社クラウン観光(以下「クラウン観光」という。)の資本の総額は、昭和五九年五月三一日(以下後記3のとおり原告から出資持分の譲渡を受けた日の属する事業年度の直前の事業年度終了の日)の時点で二五〇万円で、出資一口の金額は一万円、総口数は、二五〇口であり、原告の実兄であるクラウン観光代表取締役鈴木和夫及び原告が右出資持分を有しており、原告は、所得税法施行令(昭和六二年政令第三二九号による改正前のもの。以下同じ。)二八条一項一号に規定する特殊関係株主等に該当した。

3  原告は、クラウン観光との間で、昭和六〇年二月七日付の「合意書」(以下「合意書」という。)及び同年三月二九日付の「合意書に基く実行についての覚書」(以下「覚書」という。)を取り交わし、原告のクラウン観光に対する出資持分(以下「本件出資持分」という。)をクラウン観光に譲渡し、クラウン観光からその所有の別紙目録記載の不動産及び有価証券(以下「本件財産」という。)を譲り受ける旨の合意をした(右合意の相手方がクラウン観光であることにつき、甲三、証人鈴木和夫、弁論の全趣旨)。原告は、右合意に基づき、右不動産について同日付で所有権移転登記を経由し、有価証券について同年四月末日までにその引渡しを受けた。

4(一)  クラウン観光は非上場会社であり、出資持分のすべてが原告の実兄及び原告によって所有されていた小規模な同族会社である。このような会社の出資の価額は、法人税基本通達九―一―一四の(3)にいう「発行法人の事業年度終了の時における一株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」で決定されることが合理的であり、同通達九―一―一五は、時価の算定方法として「相続税財産評価に関する基本通達」(以下「評価通達」という。)の一七八から一八九(取引相場のない株式の評価)の例により、<1>中心的な同族株主に該当する株主が所有する株式については小会社としての評価(純資産価額方式)によること、<2>所有する資産のうち土地と上場有価証券については時価で評価すること、を条件として算定することとしている。

なお、右通達は、法人が非上場会社のうち気配相場のないものについて評価損を計上する場合の期末の時価に関する取扱いを定めたものであるが、非上場株式などの評価について常識的な評価方法を定めた準則として、非上場株式の売買や本件のような出資の譲渡を行う場合の適正取引価格の判定に当たっても準拠されるべきものである。

(二)  クラウン観光は、原告から本件出資持分を譲り受けるに当たって、法人税基本通達九―一―一五の取扱いに準じて評価通達に定める取引相場のない株式の評価における小会社の評価の例により、別紙資産価額算定表記載のとおり、出資一口当たりの評価を六五九万二〇〇〇円と算定し、これを切り上げて六六〇万円とした。

5  原告には、昭和六〇年分の所得として、譲渡所得以外に不動産所得三八三万六八九二円と給与所得一一六万五〇〇〇円がある。

二  争点

本件出資持分の譲渡が課税対象となるか否か。すなわち、クラウン観光の出資総口数二五〇口に占める本件出資持分の割合が一五パーセント以上であれば、本件出資持分の譲渡所得は所得税法(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの。以下同じ。)九条一項一一号ハ、同法施行令二八条一項一号、二号により所得税の課税対象となるところ、被告は、本件出資持分は四〇口(持分割合一六パーセント)であると主張し、原告は、右主張を争い、次のとおり主張する。すなわち、

1  原告とクラウン観光代表取締役鈴木和夫との間で締結された合意書(甲二)及び覚書(甲三)によれば、原告と右鈴木和夫との間に、<1>原告がクラウン観光に対して有する持分を譲渡して退社すること、<2>右退社に当たってクラウン観光は原告に対して本件資産を譲渡すること、<3>原告が譲り受ける右資産と本件出資持分の評価額との差額を原告が支払うこと、<4>その支払いに充てる現金については、クラウン観光が原告に退職金及び賞与として支払うこと、<5>原告のクラウン観光に対する貸付金債務等は免除すること、以上の合意が成立した。そして、清算仕訳書(甲五)によれば、原告が譲り受ける本件資産の価額は二億四五九〇万七〇〇〇円であり、退職金は七二四二万円であるから、右<3><4>により、本件出資持分の価額は、右本件資産の価額から退職金の金額を差し引いた一億七三四八万七〇〇〇円となる。また、清算仕訳書の貸方欄に貸付金及び未収入金を計上するのは右<5>に反する。

2  クラウン観光の純資産額は、専門家の鑑定(甲一)によれば二四億四六八九万七〇〇〇円であるから、右1の本件出資持分の価額が右純資産額に占める割合は約七・一パーセントであり、仮に本件出資持分一口当たりの価額を被告が主張する六五九万二〇〇〇円であるとしても、右1の本件出資持分の価額を持分に換算すれば約二六・三口となり、持分割合は一〇・五パーセントである。

第三争点に対する判断

一  本件出資持分の譲渡が課税対象となるか否かについて検討する。

鈴木和夫は、昭和三九年七月一四日、谷脇武重とともに、資本の総額を二五〇万円、出資一口の金額を一万円とし、総口数を二五〇口のうち、自己が二一〇口を、右谷脇が四〇口をそれぞれ引き受けて、クラウン観光を設立したが、その後、原告が右谷脇の出資持分四〇口全部を譲り受けたこと(乙五、六、証人鈴木和夫)、原告は、昭和六〇年二月末日をもって退社することとなり、クラウン観光との間で、合意書及び覚書を取り交わし、原告の出資持分四〇口全部をクラウン観光に譲渡したこと(甲二、三、証人鈴木和夫、同吉川成喜、原告本人)、吉川成喜は、合意書及び覚書をもとに本件出資持分が四〇口であることを前提として清算仕訳書を作成したこと(甲五、証人吉川成喜)が認められ、これらの事実を勘案すると、本件出資持分は四〇口であったということができる。

もっとも、原告は、自己の持分の口数は知らない旨供述し(原告本人三丁表、一三丁裏、一四丁表)、鈴木和夫も、原告が四〇口の持分を持っていたとの感覚はない旨証言する(同証人一一丁表)けれども、原告の持分は、右谷脇が有していた四〇口を譲り受けたものであって、その後原告が右持分の一部を他に譲渡したなどの事情は認められないから、原告が有していた持分は四〇口であるとしか考えられず、鈴木和夫も、結局、右のとおりであることを肯定している(同証人一五丁裏、一六丁表)。したがって、右原告本人の供述及び証人鈴木和夫の証言は、本件出資持分が四〇口であるとする前記判断を左右するものではない。

したがって、本件出資持分は四〇口であって総出資口数二五〇口の一六パーセントに当たるから、その譲渡所得は、所得税法九条一項一一号ハ、同法施行令二八条一項一号、二号に該当し、所得税の課税対象となる。

二  被告は、本件出資持分の譲渡によって原告が受けた経済的利益の価額を二億六四〇〇万円と算定し、原告の譲渡所得が一億三一五五万円である旨主張しているので、この点について検討する。

1  原告がクラウン観光から退社するに際し、クラウン観光との間で合意した主たる内容は、<1>原告はクラウン観光に本件出資持分全部を譲渡すること、<2>クラウン観光はその対価として本件資産を原告に譲渡すること、<3>原告のクラウン観光に対する債務である貸付金七二〇八万四三二三円及び未収入金一八四二万八六七七円をクラウン観光が免除することの三点である(甲二、三、証人鈴木和夫、同吉川成喜、原告本人)。そして、原告は、合意書及び覚書の作成時、本件資産をもらってクラウン観光から退社し、これによってクラウン観光に対する持分全部を失うことを認識しており、その会計処理を鈴木和夫あるいはクラウン観光に任せた旨供述し(原告本人一四丁裏、二一丁裏、二二丁)、鈴木和夫は、本件資産を原告に譲り渡し、原告のクラウン観光に対する債務を免除した上、原告にクラウン観光から退社してもらう旨合意し、その会計処理を税理士である吉川成喜に任せた旨証言し(証人鈴木和夫一三丁、一四丁)、右吉川は、右鈴木和夫の意向に従い、貸方欄に本件資産と原告のクラウン観光に対する債務を、借方欄に本件出資持分と原告に対する退職金七二四二万円をそれぞれ計上して清算仕訳書を作成した旨証言している(証人吉川成喜)ところ、右供述及び各証言は、その内容に矛盾がなく、不自然、不合理な点もないこと、右吉川の証言は甲四ないし七の記載内容と合致していることなどにかんがみ、信用することができる(なお、原告に退職金を支払うとの合意をしたことはない旨の証人鈴木和夫の証言は、甲四ないし七に照らし、採用することができない。)。右<1>ないし<3>の合意内容及び清算仕訳書の記載内容を併せ考えると、原告がクラウン観光に本件出資持分を譲渡した対価として受けた経済的利益の価額は、本件資産の価額に原告のクラウン観光に対する債務である貸付金七二〇八万四三二三円及び未収入金一八四二万八六七七円を加えた合計額から退職金七二四二万円を差し引いたものというべきである。

2  クラウン観光は、本件資産の譲渡に当たり、一株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書(乙四の1ないし3)を作成しているところ、右計算明細書は法人税基本通達等に則って作成されたものである(争いがない。)から、適正なものであるといってよい。

右乙四の3によれば、別紙目録一1及び2の土地の価額は六六二四万三三三三円、同一3の建物の価額は少なくとも二四七三万九八〇〇円、同一4の土地の価額は一億三一三四万三九三九円、同二1の株式の価額は二〇九〇万七〇〇〇円、同二2のゴルフクラブ会員権の価額は三〇〇万円であると認められる。そうすると、原告がクラウン観光に本件出資持分を譲渡した対価として受けた経済的利益の価額は、本件資産の価額合計である二億四六二三万四〇七二円に右1記載の原告のクラウン観光に対する債務の合計額九〇五一万三〇〇〇円を加えた三億三六七四万七〇七二円から退職金七二四二万円を差し引いた二億六四三二万七〇七二円となる。なお、原告は、甲一において、別紙目録一3の建物につき取り壊すことを前提としてマイナス評価をしているけれども、この点は、甲五及び乙四の3に照らし、採用することができない。

3  以上によれば、被告が、本件出資持分の価額を二億六四〇〇万円であると算定したことは、原告が受けた実質的な経済的利益の価額である二億六四三二万七〇七二円を下回るものであるから、納税者の実質的な経済的利益に対して課税するとの実質課税の趣旨に照らし、正当なものであるというべきである。そうすると、本件出資持分四〇口の価額二億六四〇〇万円から取得費の出資金額四〇万円(乙一の2、五)及び譲渡所得の特別控除額五〇万円(所得税法三三条四項)を控除した金額の二分の一である一億三一五五万円が譲渡所得の金額となる(同法二二条二項一号)。したがって、原告の昭和六〇年分の総所得金額は、右譲渡所得一億三一五五万円に不動産所得三八三万六八九二円及び給与所得一一六万五〇〇〇円(不動産所得及び給与所得の金額は争いがない。)を加えた一億三六五五万一八九二円となる。

三  以上のとおりであるから、本件処分は適法である。

(裁判長裁判官 山脇正道 裁判官 佐堅哲生 裁判官 河田充規)

課税経過表

<省略>

目録

一 不動産

1 高知市北本町一丁目三二番

宅地 二七八・四四平方メートル

2 高知市北本町一丁目三三番

宅地 三三・八五平方メートル

3 高知市北本町一丁目三二番地

家屋番号 三二番

鉄筋コンクリート造陸屋根四階建店舗

床面積 一階 一四五・五〇平方メートル

二階 二一九・〇〇平方メートル

三階 二一九・〇〇平方メートル

四階 四四・二五平方メートル

4 高知市廿代町七九番

宅地 三七六・九〇平方メートル

二 有価証券

1 株式会社奥村組株式 六万九〇〇〇株

2 土佐カントリークラブゴルフ会員権 二口

資産価額算定表

<省略>

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